恋を知らないきみへ
高瀬家に伺う約束を取りつけたのは、その二日後のことだった。

以前担当したお客様の中で、率直に話してくれそうな人。
なおかつ、若年層ファミリー向けブランドを考えるうえで参考になりそうな人。

そんな条件で何人か頭に浮かんだ中で、真っ先に思い出したのが高瀬家だった。


家を建ててから三年弱。

夫婦ともに三十代前半で、娘さんがひとり。そして今、奥様のお腹には二人目の赤ちゃんがいる。

引き渡し後も何度か連絡を取り合っていて、展示場のイベントで顔を合わせたこともある。
娘の紬ちゃんは、そのたびに私を見つけて駆け寄ってきてくれるくらいには懐いてくれていた。


私の運転で高瀬家へと向かう車中、ほとんど会話はなかった。

こちらから特に話すこともないし、あちらも助手席でずっと外を眺めている。

彼のテンションの低さに不安になってくる。
今日に限っては、お客様の家へ行くのだからもう少し感じよくしてくれてもいいのに、と思う。

あらかじめ“こういうお客様のおうちに行くよ”という話もしてあったので、それ以上の話もない。


……この人を本当に同行させてよかったのかな、なんてよぎってしまったけれど。
社会人なのだから、最低限の愛想は持ち合わせていると信じたい。


< 41 / 93 >

この作品をシェア

pagetop