恋を知らないきみへ
間もなく高瀬家に到着するあたりで、私は念を押すように彼に話しかけた。

「高瀬さんご夫婦、すごく話しやすい方たちだから、変なこと言わないでよ」

「変なことって?」

「“それって結局、住環境の見直しですよね”みたいなやつ。屁理屈なユーチューバーが言ってそうなセリフ」

「……まだ根に持ってるの?」

「持つでしょ。私がどれだけ腹立ったと思ってるの」

木ノ下くんは呆れたように息を吐く。

「じゃあ今日は黙って過ごそうか?」

「来る意味ないじゃん!黙られたらそれはそれで困る。聞きたいことがあるならちゃんと聞いて」

「……ったく。注文多いな」

「木ノ下くんが極端なんだよ」

言い返したところで、ちょうど高瀬家のある角を曲がる。
白を基調にした二階建ての家が見えてきた。


あらかじめ来客用の駐車場をひとつ確保してくれている高瀬家。
アポをとった時に、うちの車を停めていい許可をいただいていたので、そこへ駐車する。

わりと長い時間車に乗っていたからか、降りた木ノ下くんが大きく伸びをした。


私も運転席から降りて、パンツスーツがシワになっていないか確認する。
そして後部座席に置いていた紙袋を手に取った。

私が取り出した紙袋に目を留めた木ノ下くんが、ぼそっと尋ねてくる。

「それ、なに」

「手土産。初めて行くわけじゃないけど、一応」

「……気を遣わなきゃいけないのも大変だね」

「私たちのために時間を割いてくれるんだから、これくらい当然だよ」

「へぇ」

相変わらず会話が膨らまない。でも今日は、この人とここで言い合っている場合じゃない。


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