恋を知らないきみへ
道路から玄関までのアプローチには小さな植栽が並んでいて、脇には子ども用の自転車が停まっている。
玄関横の窓からは、明るいリビングの灯りがちらりと見えた。

「この玄関の雰囲気もさ、ご夫婦がけっこうこだわったんだよ」

「……ふーん」

「なに、その反応」

「いや、人によってこだわりって様々だなって」

「そりゃそうでしょ」


そんな当たり前のやり取りをしながらインターホンを押すと、ほどなくして玄関扉が開いた。

「小関さん!」

明るい声と一緒に顔を出したのは、高瀬由佳さんだった。
ゆったりしたワンピースの上からでも、お腹がふっくらしているのが分かる。


「お久しぶりです。今日はありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ来てくださって嬉しいです。どうぞー!上がってください」

ほっとするような柔らかい笑顔に迎えられて、私も自然と笑みを返した。

「お邪魔します」

靴を脱いで上がって揃えていると、奥からぱたぱたと軽い足音が近づいてくる。


「ほのかちゃーん!」

予想通りの勢いで元気よく飛び出してきたのは、ひとり娘の紬ちゃんだった。

肩につくくらいの髪を二つに結んでいて、ふわっとしたチュールのワンピースがよく似合っている。

「わぁ、紬ちゃん!久しぶり。背、伸びたんじゃない?」

しゃがんで目線を合わせて笑いかけると、紬ちゃんも嬉しそうににこっと笑う。

「うん!もう一年生だもん!」

「そっかあ。初めて会った時は保育園だったもんね」

「あのね、つむぎのランドセル、ピンクなんだよ!」

「えっ、ピンクなんだー!あとで見せて!」

そうやって話していると、紬ちゃんがふと私の後ろを覗き込んだ。

その視線の先にいるのは、当然木ノ下くんだ。


< 43 / 93 >

この作品をシェア

pagetop