恋を知らないきみへ
中腰のまま廊下を歩いていると、由佳さんが後ろから「すみません」と苦笑いしていた。

「小関さん、いつも付き合わせちゃってごめんなさいね。紬、小関さんのことほんとに好きみたいで」

「むしろ嬉しいです。紬ちゃんに会えるの、私も楽しみだったので」

そう答えながらリビングへ通されると、そこは自然光が差し込んでいて明るくて、どこか空気に余裕のある空間だった。


ダイニングテーブルの横には、壁に沿うように小さなスタディスペースが作られている。

ランドセルや学校用品を置く棚が近くにあって、色鉛筆やノートが整然と並んでいた。
リビングの一角には子どもの絵本や工作の道具が置かれているのに、不思議と雑然として見えない。


少ししてから、旦那様の高瀬悠真さんもリビングに顔を出してきた。
眼鏡をかけた穏やかそうな人で、私たちを見ると「こんにちはー」と柔らかく会釈してくれた。

「今日は来ていただいてありがとうございます。なんか、うちで役に立つんでしょうか?大丈夫かなって妻とも話してて……」

「ご無沙汰してます。お時間いただいてすみません。お話を聞かせていただけるの、すごく助かります」


挨拶を交わして席に着くと、由佳さんが麦茶とジュースを運んできてくれた。

紬ちゃんは当然のように私の隣へピタッと座り、そして木ノ下くんのことが気になるのかちらちら見ている。

彼はその視線に気づいているくせに、見ないふりをしてノートパソコンを開いていた。


「じゃあ、早速なんですけど……」

私はタブレットを開きながら本題を切り出した。

「今日は、家を建てる前にどんなことを考えていたかとか、実際に住んでみてどうだったかとか、そのあたりを率直に聞かせていただけたらと思っていて」

「はい」

「それで、まずは、高瀬さんご夫婦が家を建てようと思ったきっかけって、改めて振り返るとどんなことだったんでしょうか?」

私の質問に、先に答えたのは由佳さんだった。

「きっかけは……、二人目を考え始めたことが一番大きかったかもしれません」

そう言って、彼女は自分のお腹にそっと手を当てる。


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