恋を知らないきみへ
「当時はまだ紬が保育園だったんですけど、娘ひとりでも毎日かなりばたばたしてて。そこにもう一人増えたら、今の家じゃたぶん回らないなって思ったんです」

「“回らない”っていうのは、具体的にどんなところで感じてましたか?」

私が聞くと、由佳さんは少し考えてから言葉を選ぶように話し始めた。


「広さが足りない、というより……、生活のものが全部混ざっちゃう感じですかね。保育園バッグも仕事の書類も、おもちゃも洗濯物も、全部リビングの近くに集まっていて」

「あー、分かります」

思わずうなずくと、由佳さんがほっとしたように笑う。

「夫婦でフルタイムだったので、毎日きれいに片付ける余裕もなくて。寝室に置くもの、リビングに置くもの、子どものもの、仕事のもの、その境目がどんどんなくなっていく感じだったんです」

「それに、当時は僕も在宅勤務が増えてた時期で」

今度は悠真さんが引き継ぐように言った。

「会議中に紬が横で歌い出したり、おもちゃ広げたりっていうのも普通にあって。もちろんそれが嫌っていうわけじゃなくて。……ただ、家の中のどこにいても、何かと何かが重なってる感じはありましたね」

「なるほど……」


私がメモを取りながら相槌を打つ横で、木ノ下くんも珍しく真面目な顔でキーボードを打っている。

たぶん今の話を、自分なりに整理しているのだろう。


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