恋を知らないきみへ
「前の家だったら、たぶん全部リビングのテーブルに広げることになってたと思います。食事のたびに動かしてどかして、また出して、って」

「今は帰ってきたらランドセル置いて、手を洗って、宿題して、っていう流れがなんとなく決まってるので、それだけで全然違います」

悠真さんが由佳さんに続くように話す。

「“広い家がほしい”と思ってたつもりはなかったんですよ。賃貸時代の限られたスペースに慣れてもいましたし。……ただ、一軒家に住んでみて、生活の流れが決まる場所があるって、思った以上に大きいんだなって実感しまして」

「うんうん。分かる気がします」


私はメモをとったあと、スタディスペースの棚に目をやる。

教科書や連絡帳、色鉛筆の箱まで、子どもの生活に必要なものがちゃんとそこに収まっている。

リビングにあるのに、リビングを侵食していない感じがした。


「あと、いま二人目を妊娠してるので……」

言いながら、由佳さんが少し照れたようにお腹を優しく撫でる。

「もしこれが前の家だったら、たぶんもっと不安だったと思います。上の子の宿題見ながら赤ちゃんのお世話して……、っていう生活が全然想像できなくて」

「今の家だと想像できますか?」

私が聞くと、由佳さんは少しだけ笑った。

「はい。できます。もちろん大変なのは大変だと思うんですけど、前よりはちゃんと回せる気がする、っていうか」


その言い方が、すごくリアルだった。

“余裕があります”でも、“完璧です”でもない。

ただ、前よりはやっていけそうだと思えること。
それだけで、家を建てた意味としては十分大きいのかもしれない。


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