恋を知らないきみへ
「……今日、どうだった?」

聞くと、木ノ下くんはすぐには答えなかった。

しばらく黙ってハンドルを操作しながら、前を向いたままぼそっと言う。

「……思ってたより、細かかった」

「細かい?」

「家を建てた理由も、住んでからよかったことも。もっと分かりやすく“広いから”“便利だから”って話かと思ってた」

「うん」

「でも、そういうことじゃないんだね」


その言葉に、思わず息を止めそうになる。

まさか木ノ下くんの口からそんな感想が出てくると思っていなかった。

驚いて横顔を見つめていたら、ちょうど信号待ちで彼がこちらを見る。
目が合った瞬間、逸らされた。

「……なんなの、その顔」

「いや、ちょっとびっくりして」

「失礼だな」

「だって木ノ下くんが素直にそういうこと言うと思わなかったし」

「別に素直じゃないわけじゃない」

「十分ひねくれてるよ」

私が言うと、木ノ下くんは面倒そうに息を吐いた。

「ただ、“住環境の見直し”でまとめると雑になる理由は少し分かった」

「……うん」

「家族が増えるかもしれないから家を考えた、っていう話と、実際に住んでから小学校の生活が回りやすくなったっていう話、同じ家の話なのに軸が違うし」

「うん、そうなの」

「でも、どっちもその家にとっては本当なんだろうなって」


ようやくそこまで言った木ノ下くんは、ふっと表情がどこか変わった。

たぶん、これ以上自分から何かを認めるのが癪なんだと思う。
でも、それでも十分だった。

……ほんとに、素直じゃない。

私はなんとなく笑ってしまった。


「……なに笑ってんの」

「ひねくれ者の木ノ下くんでも、ちゃんと現場に来たら分かってくれるんじゃん、って思って」

「……小関さん、ほんと腹立つ」

「それはこっちのセリフ」


そう返すと、木ノ下くんは少しだけ呆れたように目を細めた。

その顔は相変わらず愛想なんてひとつもなかったけれど。
初めて会った頃のような冷たさとも少し違って見えた。


木ノ下くんは相変わらずひねくれている。

でも今日だけは、少しだけ。
私の見ている景色を、一緒に見てくれた気がした。



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