恋を知らないきみへ

4 半分だけ

高瀬家を訪れてから数日。

あの日聞かせてもらった話をきっかけに、私は展示場で出会うお客様へ、以前よりも少しだけ違う質問をするようになっていた。


「家を建てようと思った理由」ではなく。

「住み始めてから、一番『よかった』と思ったことは何ですか?」

すると返ってくる答えは、やっぱり人それぞれだった。


子どもが朝、自分でランドセルを片付けるようになったこと。

洗濯物を干す時間が短くなったこと。

リビングで宿題を見るようになって会話が増えたこと。


家を建てた理由よりも、住んでから初めて気づく幸せの方が、ずっと具体的だった。
その一つひとつを私はメモに残し、空いた時間に木ノ下くんへ共有していた。


木ノ下くんは競合分析やアンケート結果を整理してくれていて、私が送ったメモも見やすい資料にまとめられている。

そういうところは相変わらず悔しい。

でも、"どこを見ればいいか"だけは誰より分かりやすかった。


そして、何度か打ち合わせを重ねてきた小会議室スペースの一角。
午後四時ちょうど、いつもの時間。

私が着くと、木ノ下くんはもうノートパソコンを開いて待っていた。


ここ二週間で学んだことが一つある。
木ノ下くんとは、最初の一言が大事。


「お疲れ様です」

すると顔は上げないまでも、彼の目だけがこちらを向いた。

素っ気ない返事が返ってくる。

「おつかれ」


向かいに座ってパソコンやタブレットをテーブルに広げながら、私は真正面に座る彼の顔を何気なく見た。

その視線に気づいたらしく、木ノ下くんは思いきり怪訝そうな表情を浮かべる。

「……なに」

「いつも何分前に来てるの?」

「それ聞いてどうするの」

「普通の雑談だよ」

「俺に興味ないでしょ、べつに」

……なんなんだろう、この人。
雑談くらい普通にすればいいのに。

雑談って、そんなに難しいものだったっけ?


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