恋を知らないきみへ
「弱いって言われると、まあまあ傷つくんだけど」

「俺は資料の話をしてる」

「……分かってるよ」


分かってはいる。

この人が私個人を否定しているわけじゃないことくらい、さすがにもう分かっている。

ただ、それでも腹の奥が少しむずむずする。

営業として聞いてきた言葉を、あっさり「弱い」と判断されると、自分の仕事までまだ途中だと言われているような気がしてしまう。


たぶん、それは私の勝手な受け取り方だ。
木ノ下くんにそんな意図はない。

ないからこそ、余計に厄介なのだけれど。


「小関さんは、この一ページで何を覚えてほしいの?」

「え?」

「営業部長とマーケ課長がこの資料を見て、一番最初に何を持ち帰ればいいと思う?」

急に質問されて、私は画面を見つめ直した。


高瀬さんご夫婦のこと。
第二子を考えた時の不安。
小学生になった紬ちゃんの生活。

展示場で聞いたいくつもの声。
どれも削りたくない。

だけど、そう答えたら、きっとまた木ノ下くんは「だから伝わらない」と言うのだろう。


「……若い家族が、家に何を求めてるか」

なんとか答えを捻り出すと、彼は目を細めて首を振った。

「うーん、広いな」

「……広すぎる?」

「うん」

即答されて、思わず唇を噛む。
やっぱり、予想通りのことを言われた。


「じゃあ、木ノ下くんならなんて言うの?」

「それは俺が決めることじゃない」

「え、そうなの?」

「小関さんがお客様から直接聞いてきた声でしょ」

その言葉に、少しだけ手が止まる。


てっきり突き放されたのかと思った。
しかしどうやら、違うらしい。

たぶんこれは、私に“考えろ”と言っている。

腹立たしいことに、仕事中の木ノ下くんは、ただ答えを投げてくるだけの人ではないらしい。


「……生活が回ること」

もう一度考え直して、頭に浮かんだ言葉をまとめながらゆっくり口にしてみる。

「家族が増えても、子どもが成長しても、毎日の暮らしがちゃんと回ること」


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