恋を知らないきみへ
木ノ下くんは私の手が離れたのを確認してから、選択していた文章を二ページ目へ移動させる。

高瀬さんご夫婦のエピソードだけが、一ページ目に残った。


私は画面を覗き込もうとして、思わず椅子を少しだけ前へ寄せた。

「……見えない」

「そりゃあ、そこからじゃ見づらいでしょ」

木ノ下くんは画面を少しだけこちらへ向けた。でも向かいからでは細かい文字までは読めない。

画面が見えづらくて、私は立ち上がりかけた。


「こっち座って。その方が早い」

彼が自分の隣の椅子を軽く引いたので、言われるまま隣へ移動する。
確かにもういっそ横並びで作業した方が効率はいい。


座り直したところでパソコンを改めて見つめると、出来上がった一ページ目がよく見えた。


横から見る木ノ下くんの画面は、向かいから覗き込んでいた時よりずっと見やすかった。

思っていたよりも余白ができていて、並んでいた文章もすっきり整理されている。
情報量が減っただけで、急に見出しが立って見えた。


『家族が増えても、生活が回る家』

その言葉が、前よりずっと目に入ってきた。

私が画面から目を離せないでいると、ぽつりと木ノ下くんが話し出す。

「一ページ目は、高瀬さん。この家族を覚えてもらう」


そして次に、彼は二ページ目を開いた。

そこには、展示場で集めた他のお客様の声が、項目ごとに並び始めている。


『子どもの成長』

『共働きの家事負担』

『在宅勤務』

『ペットとの暮らし』

『人を呼べるリビング』


木ノ下くんはさっきのマウスの攻防なんてなかったみたいに、淡々と話を続けていく。

「二ページ目で、似た悩みを持っている人が他にもいると見せる」

「……うん」

「三ページ目でアンケート結果と競合分析」

「うん」

「最後に、営業目線で拾えた言葉をもう一度戻す」

「……戻す?」

「データだけで終わると、ただの市場調査になる」


その言葉に、思わず木ノ下くんの顔を見た。

彼は何も特別なことを言っていないような顔で、画面を見ている。
こちらは見ない。


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