恋を知らないきみへ
再びエレベーターで広い一階ロビーに降り立って、なんとなくようやく今日の仕事が終わる実感が湧いてきた。

長い一日だったな、と思いながらエントランスを歩いていると。
聞き慣れた声がした。


「ほのか!」

すぐに振り返ると、侑樹さんが笑顔でこちらへ駆け寄ってくるところだった。
どうやらあちらも仕事終わりらしい。

「お疲れ。いま上がり?」

「お疲れ様。侑樹さんも?」

「そうなんだよ、ちょっと押しちゃってさ」

「そっかあ。こっちもやっと例の案件の資料作り終わって」


自然に二人で並んで、エントランスを通り抜けて会社を出る。

侑樹さんには、新ブランドの立ち上げを担当することは、さらっと話してある。
でも、事細かに詳しくは話していなかった。

駅までの道を歩きながら、侑樹さんは暑そうにワイシャツの上のボタンを外していた。

「あっつ……」

そう言いながらも、いつもみたいに手を繋いでくる。


「ほのかのその仕事って、まだ落ち着かないの?先週末、疲れてるからって言ってたから会えなかったじゃん」

「……うん。一緒に組んでる人に、“なんならこれから始まる”みたいなこと言われた」

「マジかよ……。しばらく忙しい感じ?」

「うん……たぶん」

話しながら、木ノ下くんの言っていた“to be continued”が頭から離れない。


「そういえば、その仕事って誰と組んでるんだっけ?」

何気なく侑樹さんに尋ねられて、

「マーケの木ノ下くん」

と、そのまま答える。

「木ノ下?マーケかー……。知らないな、何年目?」

「私と同期だから、六年目。でも私も今回で初めて話したようなものなんだよ。これまで全然接点もなくて」

「ふーん。どんなやつ?」


たぶん、彼からすればただの興味本位の質問。

でも今の私には軽くない。
小さく積もっていた本音が、ぶわっと溢れ出した。


「仕事はできる、とは思う。でも、ほんっと言い方!人を褒める時まで、ひとこと多いの」

気がついたら堰を切ったように止まらない。

「人の文章を"弱い"とか普通に言うし。マーケだからって全部"マーケ的には"で片付けるし」

無意識に繋いでいる手にも力が入った。

「今日も最後に"to be continued"とか言い出すんだよ!なんだろう……、今まで会ったことないタイプなの」


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