恋を知らないきみへ
言い切ってから、木ノ下くんと過ごした今日の数時間を思い返す。

「……悪い人じゃないけど、ひねくれてる」

“悪い人じゃない”と付け足した自分に、ちょっとびっくりしてしまった。


「はははは、変なやつなんだな。ていうか、ほのかが人のことをそんな風に言うの、初めて聞いたかも」

「……それ、桃果にも言われた」

「ほのかにとっても、いい社会勉強だなー」

頬をふくらませて、笑い飛ばす侑樹さんを睨んでいると、その頬を指でつつかれた。

「このあとうち来なよ」


自然に誘われたけれど、どうにもそんな気分にはなれなくて。

「……明日、大事な打ち合わせがあるの」

「俺、ほのか不足だよ」

「ごめん。今週末は行くから」

「……分かった、約束ね。無理すんなよ」


侑樹さんは、いつでも優しい。
いつも私の気持ちや、私の体調を優先してくれる。

その優しさに、たぶんずっと甘えてきたし、そして当たり前だと思って付き合ってきたかもしれない。
それが居心地の良さとイコールになっているのも事実だった。


会社の外だからか、彼が肩に手を回してくる。
私はそれを振りほどかなかった。

むしろその回された手に、自分の手を重ねた。


……私には、こうして隣を歩いてくれる人がいる。

疲れた日は「無理しなくていい」と言ってくれる人がいる。


それで十分だと、この時の私は信じていた。

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