恋を知らないきみへ

5 昨日より、ずっといい

中会議室の時計が、午前十時ちょうどを指した。


営業部長とマーケ課長が向かいに座り、私と木ノ下くんは資料を手元に広げる。
昨日遅くまでかかって完成させたものだ。

たった一晩前まで二人で向き合っていた資料が、今日はずいぶん遠いものに見えた。


「じゃあ、小関さん」

営業部長が穏やかに口を開く。

「まずは簡単に説明お願いできるかな」

「……はい」

小さく息を吸って、一ページ目にそっと手を当てた。


高瀬さんご夫婦との出会い。
展示場で聞いてきた言葉。

『家族が増えても、生活が回る家』というテーマにたどり着いた理由。

話しているうちに少しずつ緊張もほどけてきた。


横を見る余裕はなかったけれど、数字や競合分析のページになると、自然と木ノ下くんへ視線を送る。


「それでは、ここからは木ノ下くんが」

「はい」

短く返事をして、木ノ下くんが説明を私から引き継いだ。

競合各社の打ち出し方やアンケート結果、そして、年齢層ごとの傾向。

必要以上に飾らない説明だった。
だからこそ聞きやすい。


全部説明し終えると、会議室が静かになった。

営業部長は資料を閉じずにページを何度か行ったり来たりしながら眺めている。

マーケ課長は腕を組んだまま、私たちを見て何かを考えているようだった。


……長い。
ほんの数十秒の沈黙なのに、何分にも感じる。


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