恋を知らないきみへ
私が社員食堂を利用することは、週に一回あるかないかだ。

ほとんど営業の出先だったり、もしくは気分転換に会社の外にあるちょっと小洒落たお店に行ったりする。
時短で済ませたい時や、デスクワークが多い日は食堂を使ったりしていた。


まだ少し早い時間帯に来たからか、いつも混んでいるイメージしかなかった社食が空いていて、席が選び放題だった。

メニューに悩んでいる横で、木ノ下くんはトレイを持つなり足早に進んでいく。

「待って木ノ下くん。メニューは?もう決めたの?」

そう聞きながら私が慌てて駆け寄ると、もうキッチンのいつもの女性が彼の姿を確認するなり声をかけていた。

「あら、こんにちは。いつものでいい?」

「はい、お願いします」

ぺこりと頭を下げる木ノ下くんの顔を見て驚く。

……めっちゃ笑顔じゃん。なにその爽やかなスマイル。

見たことのない彼の笑顔に戸惑いながらも、私はとりあえず夏野菜の冷製パスタを頼んでおいた。


先を行く木ノ下くんは、迷うことなく食堂の一番端の席にトレイを置いて、イスに腰かける。
そういえば、前に彼を見かけた時もこの席に座っていたような。

「いつもこの席なの?」

「まあ、空いてれば」

「返却口も遠いし、給水器も遠いのに?」

「知り合いと遭遇する確率が下がる」

「……なにその理由」


理解しがたい彼の考えに寄り添えないまま、私もトレイを置いて木ノ下くんと向かい合って座る。

「「いただきます」」

あくまでも食べながら話そう、というものなのでいったん箸は手に取った。

とはいえ、仕事の話をするとなるとトレイの周りにおのずと書類が並べられていく。


木ノ下くんは、“いつもの”らしい『週替わりランチ』のチキン南蛮を頬張りながら、

「午後の役割だけ決めよう」

と書類をめくった。

「小関さんは展示場で五組に聞き込みだよね」

「うん」

「俺はデータを追加する」

「めっちゃ役割分担だね」

「展示場の回答を夕方までに送ってくれれば、そのまままとめる」


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