恋を知らないきみへ
何を言っているのかさっぱり分からなくて、眉を寄せて抗議しようとしたら。

また女性の声で「ほのかちゃん!」と声をかけられて止まる。


今度は総務部の先輩だった。

「社食で会うなんて久しぶりー!」

同窓会みたいなテンションで肩を叩かれ、私も笑顔で「お疲れ様です!」と会釈する。

「相変わらず忙しそうね、ほのかちゃん」

「忙しい方が好きなのでいいんです」

「頑張るねえ」


彼女は通りすがりに声をかけていっただけなのかと思いきや、また舞い戻ってきて私のトレイに温かいお茶を置いてきた。

「午後も頑張ってね!」

明るく手を振っていった先輩にこちらも手を振り、まだ残っているパスタを再び食べようとフォークを手に取った時、木ノ下くんと目が合った。

……ものすごく、なにか言いたげな目をしている。

いつの間にかもうすっかりチキン南蛮のランチを平らげた木ノ下くんは、納得のいかないような表情だった。


「ご飯食べるだけなのに疲れそう」

「どういうこと?」

「昼休みなのに休めてないじゃん」

「普通だけど?営業ってこんな感じだよ?」

先輩が持ってきてくれたお茶を飲んで笑うと、今度は彼が深いため息を漏らすのだった。

「……天然なのか」

「なにが?」

「いや、なんでもない」


木ノ下くんはそれ以上何も言わず、黙って資料へ目を落とした。

でも私は、その沈黙の理由なんて考えもしなかった。




••┈┈┈┈••

< 82 / 126 >

この作品をシェア

pagetop