『胡蝶の夢』に囚われて ― 夢か現か幻か ―
10 ◇文世の勤務先

 現在文世は、父親の会社であるヘアタリー・ジャパン・ホールディングス合同会社にて勤務している。

 こちらの主な事業は、 持株会社の経営管理・管理部門業務サービスなどで
ある。


 文世は父親の第2秘書をしており、かなり好待遇で働いている。
 文世がいつでも休めるよう、父親が第一秘書を雇っているからだ。
 だからといって、完全なるお飾り秘書かと言うとそうでもなかった。

 文世は幼少の折に数年、父親の仕事の関係で英語圏で過ごしたことがある。

 そしてまた、帰国後は父親の配慮により、10才頃からイギリス人の講師についてみっちり英語を学んできた。

 そのように文世は英語のブラッシュアップを重ねてきたのだった。

 なので──
海外企業との取引の折に重宝される。

 そういう場面のない時は、個室を与えられているので出社しても優雅に新聞を読んだり、健康によいストレッチやヨガなどをして過ごしている。

 息子が学校から帰って来る時間を見計らい、息子にZOOMして学校での様子や家に帰ってからの様子などを聞いて時間を過ごす。

 そして再度帰社間際には、電話で「今から帰るよ~」と愛の伝言を忘れない母親であった。

 息子のことは母親に頼んである。

 とは言っても、実質身体を動かすのは昔から実家に通いで来てもらっている家政婦の鈴子であった。母親は監督という役どころである。

 自分でシッターを雇ってもいいのだが、監督者のいない場所で我が子をシッターだけに託すのはリスクがあり不安だったため、今の形をとっている。

 海外などで、カメラを設置してふたりがどのように過ごしていたのかと後でチェックしてみると、何と我が子がシッターに虐待されていたのが映像に撮れていたというような事件が頻発しているのを知っていての判断だった。

 自分は息子を溺愛している。息子のためなら身代わりに死ねる。

 夫は自分の父親が経営している会社の系列会社で勤務していた人である。


 夫の貴史とは、父親の推薦で付き合い始め、その後、貴史の熱烈なアプローチを受けて結婚した。

 もしかすると、自分は掛け値なしに自分だけを見て結婚相手に選ばれたのか?  それとも、自分の後ろについているものが加算されて選ばれたのか? 結婚を決めた時、やはりそれは正直気になった。

 けれど、父親がいなければ夫との出会いもなかったのだから、夫が一生自分と仲良く生活してくれるのであれば、むしろ後ろにあるものを逆手に取って自分は運がいいのだ──


父親が社長の家に産まれ、誰もがうらやむような素敵な男性(ひと)を夫に持てたのだと思うことにし、
自分の中にある葛藤と折り合いをつけたのである。

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