『胡蝶の夢』に囚われて ― 夢か現か幻か ―
16 ◇はじまりは
奥田と不倫を始めた時、橋本蓉子は24才だった。
奥田、34才の時だった。
大学を出て社会人になり直属の上司が奥田貴史だった。
上司は子供のいる既婚者で、清潔感溢れる素敵な年上の男性という認識はあれど、
年だって10(才)も違い、まさかの恋愛の対象になるだなんて蓉子は少しも考えたことは
なかった。
だが入社した直後から、周囲の目を盗んではタイミングよく何度も『かわいいね』とか
『デートしようよ』とか言われるようになり……。
『この仕事手伝ってくれないかな』と言われ手伝った日の帰りには、車で送ってもらったりということもあった。
会話が増える度、徐々に蓉子にとって上司は気になる存在になっていった。
『だけど、奥田係長は奥さんと離婚して私と結婚するとかそんなこと考えて私に親切にして
くるのだろうか?』そんなことを推測してみたり。
普通考えれば『遊ばれそうになってるって気づけよ』の状況なのに、蓉子はふと
まさかという気持ちにもなっていた。
それは奥田の視線がいつも熱く、求愛されているような錯覚をおこすぐらい
『かわいいね……好きだよ』とか『どこそこへ行こう』とかの誘い文句が多かったからだ。
だが、具体的に『付き合おう』と言われることはなかった。
だからたまにイベントや残業などの流れで食事や飲みに行ったりはあったけれど、
所謂大人の付き合いはなかった。
……というか、そういう雰囲気になると『ご冗談を』という感じで、蓉子は
冗談にして逃げ切っていた。
なので、キスすらなかった。
会社勤めの一環としてスポーツ大会の買い出しを一緒にしたことがあり、その時も2人きりで
車で出掛けた。
奥田とは上司と部下という垣根を越え、他愛ない話で盛り上がることができた。
だからか、すごく話していて楽しかった。
とはいってもその時の自分は、気になるとはいえ、まだ上司とどうこうなどちっとも考えていなかった。
それでも潜在的に『もしや──』が微塵もなかったかというと、それは嘘に
なったかもしれない。
この潜在的意識の『もしや──』に大人の関係は含まれておらず、この意味は
『ちゃんと交際する』という意味での潜在的意識である。
蓉子は、そのような刹那的に浮かび上がる深層に潜む気持ちと、向き合わないようにしていた。
そしてこうも考えていたのであった。
最後の一線を越えるような付き合いでなければ、そんなに深く考え過ぎる必要なんてないわ、と。
奥田と不倫を始めた時、橋本蓉子は24才だった。
奥田、34才の時だった。
大学を出て社会人になり直属の上司が奥田貴史だった。
上司は子供のいる既婚者で、清潔感溢れる素敵な年上の男性という認識はあれど、
年だって10(才)も違い、まさかの恋愛の対象になるだなんて蓉子は少しも考えたことは
なかった。
だが入社した直後から、周囲の目を盗んではタイミングよく何度も『かわいいね』とか
『デートしようよ』とか言われるようになり……。
『この仕事手伝ってくれないかな』と言われ手伝った日の帰りには、車で送ってもらったりということもあった。
会話が増える度、徐々に蓉子にとって上司は気になる存在になっていった。
『だけど、奥田係長は奥さんと離婚して私と結婚するとかそんなこと考えて私に親切にして
くるのだろうか?』そんなことを推測してみたり。
普通考えれば『遊ばれそうになってるって気づけよ』の状況なのに、蓉子はふと
まさかという気持ちにもなっていた。
それは奥田の視線がいつも熱く、求愛されているような錯覚をおこすぐらい
『かわいいね……好きだよ』とか『どこそこへ行こう』とかの誘い文句が多かったからだ。
だが、具体的に『付き合おう』と言われることはなかった。
だからたまにイベントや残業などの流れで食事や飲みに行ったりはあったけれど、
所謂大人の付き合いはなかった。
……というか、そういう雰囲気になると『ご冗談を』という感じで、蓉子は
冗談にして逃げ切っていた。
なので、キスすらなかった。
会社勤めの一環としてスポーツ大会の買い出しを一緒にしたことがあり、その時も2人きりで
車で出掛けた。
奥田とは上司と部下という垣根を越え、他愛ない話で盛り上がることができた。
だからか、すごく話していて楽しかった。
とはいってもその時の自分は、気になるとはいえ、まだ上司とどうこうなどちっとも考えていなかった。
それでも潜在的に『もしや──』が微塵もなかったかというと、それは嘘に
なったかもしれない。
この潜在的意識の『もしや──』に大人の関係は含まれておらず、この意味は
『ちゃんと交際する』という意味での潜在的意識である。
蓉子は、そのような刹那的に浮かび上がる深層に潜む気持ちと、向き合わないようにしていた。
そしてこうも考えていたのであった。
最後の一線を越えるような付き合いでなければ、そんなに深く考え過ぎる必要なんてないわ、と。