『胡蝶の夢』に囚われて ― 夢か現か幻か ―
34 ◇人の恋路

 その日から何度も届く賢人からの謝罪のメールと電話。
 どんな言い訳を聞いても、あの日賢人が会社の女の子にキスしていた事実は
変わらない。

 事実は変えられない。

 ──だとするなら、もはやどのような言い訳を聞く必要があるだろうか。
 言い訳を聞く日、それは自分がその事実を許せる日しかない。

 あんなに好きだった人なのだから、時間が経てば彼の言い訳を聞き、許せる日が
来るかもしれないと、あの日から毎日のように自分に問うている。

 けれど、ひと月が過ぎ、月が変わっても私の心は閉ざされたまま。

 言い訳もさせてあげられない自分を責めもしたりして──
それでもどうしても彼の顔を見る勇気が持てずにいた。


          ◇ ◇ ◇ ◇

 3月の年度末ということもあり、部署の成果を祝うためという名の飲み会
やら送別会などがありこの頃、社内はちょっとした浮かれ気分が漂っていた。

 私は今まで二次会には出たことがほとんどなかった。
 賢人から止められていたし、自分自身お酒の場が好きではなかったから。

 でもね、今回は同期の初音美冬に『たまにはいいじゃない』と強引に誘われたこと、
おじさん連中は別口の二次会に散って行ったみたいで、比較的若いメンバーが揃って
いたこと、などで私は初めて、いや、正確には2度目になるのかな、二次会に参加した。

 親しい美冬が一緒だったし、仕事で割と話したことのある男子社員の顔もチラホラ
見かけ、気を張らなくてすみそうだった。

 そんなこともあり、今回私は抵抗なく二次会に参加できた。
 二次会へはカラオケのできるスナックへと河岸を変えた。

 最初、皆がそれぞれ順番にマイクを握り締め歌っていた頃は、カウンター席に
いた。
 一度歌ったあとで、美冬から誘われてボックス席へ移動する。
 移動先へ座る時には、同じ部内の伊藤くんと本田くんがすでに座っていた。

 伊藤周二は、美冬が前々からファンだと言っていた人だ。
 そういうことか~。

 私は太鼓持ち? じゃなかった、恋の橋渡し役? をすることになるのかしら。
 人の恋愛ごとに首を突っ込んでる場合じゃないんですが~。
 もう今から、美冬が前のめりになっているのが手に取るように分かるのがなんとも……。

 いいよね? 私、別に普通にしていても。
 苦手なのよ~、無理に褒め殺ししたり相手に勧めたりすること。

 人の恋路を邪魔したりもしないけど、勧めたりもしたくない。
 ごめんね、美冬──頼りがいのない同僚で。
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