『胡蝶の夢』に囚われて ― 夢か現か幻か ―
36 ◇付き合ってる男、いる?


「付き合ってる男、いる?」

 本田くんの唐突な質問に私は狼狽える。
 今までの私なら、よどみなくスラスラと付き合ってる恋人がいると言えた。

 だけど──
今の私は微妙な立ち位置で、そのことで私は何て言えばいいのかわからなくて、
心と口がちぐはぐになってしまった。

 私の様子を見ていた本田くんが気の毒な素振りを見せた。


          ◇ ◇ ◇ ◇

 山倉さんに彼氏がいるというのは、社内では知らない者はいないくらい浸透している。
それを知らないのは本人だけ、おそらく。

 何故なら、告白して玉砕した者が過去数名いるからだ。
 そして、それを証明するように彼女は独身女性なら積極的に参加する社内のイベントには
これまて゛最低限のものしか参加してこなかった。

 それなのに、今回の二次会への参加。
 そして今の焦った様子。

 ぼちぼち、彼女付き合ってるヤツと結婚するんじゃないかと思っていたけど
これは勝機があるのかもしれないな。

「本田くん、私今ちょっと精神的ダメージを受けていて上手く返事ができないんだけど……」


「山倉さん、伊藤と初音さんもまとまりそうだしさ、次ダブルデートしようよ。
 固く考えないでさ、仲良くしよう、ネ?  
 人生は短くてすぐに恋愛なんてアッチ向いてほいのおじさんおばさんになっちゃうんだからさ。
 若いうちにいっぱい仲良くしよう」

「仲良く?」

「そそそっ、仲良くだよ~」
『伊藤たちが上手くいってるのかどうかは知らんけど……テキトウ。うはっ』

「まっ、今日のところは俺たち、伊藤と初音さんの恋バナでも横でシレっと
聞いときますかっ」


「うんっ。賛成~」

 私たちが小盛り上がりしていると、聞きつけた伊藤くんが『また適当なこと言ってんじゃないよ。
 俺をダシにして山倉さんを誘惑すんじゃないよ』
って本田くんとじゃれたりして、それを私と美冬とで聞いて笑った。

 なかなか楽しい時間を過ごせて、少しの間賢人のことを忘れられてよかった。
 二次会に参加して、ほんとによかった。

 本田くんが言ってたことが、どこまで本気なのかは判断がつきかねたけれど
冗談だったとしても良かったのだ。
 今の私には、何もないより断然よかった。

 真剣交際とかっていうのじゃなくても、4人でダブルデートをして、賢人のことを
ひと時でも忘れられる時間があることが今の私には大事なのかもしれない。

そう、思っ(え)たから……。


< 36 / 46 >

この作品をシェア

pagetop