『胡蝶の夢』に囚われて ― 夢か現か幻か ―
8 ◇彼女は不思議ちゃんなどではなかった

 両親と揃い一緒に大学まで抗議に行ったが、なんとしても取り合ってはもらえず、そこではじめて父親に諭され教えられて、自分は敵に回してはいけない相手に喧嘩を売ったことを知る。

「あなた……」

「普通なら、停学だけで済むだろうが……。
 おそらく――桃代が知らずに、か弱い猫の尻尾だと思って踏んだのは、虎の尻尾だったんだろうよ」

「お父さん、どういう意味よ。わけわかんない~」

「もう、忘れろ! それから絶対今後、永堀さんのお嬢さんには関わるんじゃない、いいな。
 つまらないことを企てて、逆恨みでまた何か仕出かしたりしたら、今回のように退学だけでは済まない」


「えっ、もしかして永堀さんってアッチの人ってこと?」

「違うよ。それなら今頃お前は腕の1本もへし折られていただろうよ」


「わかんない~、わかるように教えてよ~」

「何も探らず、何も考えるな。人に酷い仕打ちをすれば自分に返ってくると
勉強したのだから、今後に生かしなさい」

「あなた……」

 桜庭桃代の両親は、互いに微妙な表情で頷き合うのだった。

 桃代の母親は大人しい女で、そういうところが気にいり結婚した父親は、
なんでこんな跳ねっかえりの根性ワルが娘なのかと思うと泣けてくるのだった。


          ◇ ◇ ◇ ◇


 学食での一部始終を見ていて、渋谷はどうして文世のことをサイコパスとまでいかずとも不思議ちゃんだと認定したのか。

 それは、やはり石田たちにかしずかれていること。

 女友達の様子を変だとは思わなかったが、明らかに男子学生3人の行動は
友人というくくりでは計り切れない何かがあった。

 それに加えてそのあと、桜庭が大学に戻らずいつの間にか自分たちの前からいなくなったことなど、いくら考えても当時の渋谷には謎が多過ぎた。

          ◇ ◇ ◇ ◇


 ただ後年、自分も年を重ね広く世の中のことがわかるようになると、なんとなく文世の後ろに
あるもの、父親の後ろ盾(大金が動いた?)がその理由ではなかったかと推測できるようになった。

 ただ、わざわざそれを確かめたりするようなことはなかった。

 そして、文世のことをどこか普通じゃない人間だと思っていたのは間違いだったということも
理解した。

 もちろん、一般庶民のことを普通と定義するなら、きっと彼女は普通ではないのだろう。

 だがそうはいうものの、自分の性質(たち)であるサイコパスというものの正体と比べるとするならば、彼女は明らかに普通なのだろうと思えた。

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