離婚届を渡された契約妻ですが、罪を抱えたエリート外科医の愛が重すぎます
「あの……ツツジが、綺麗ですね」
「……ああ」

 勇気を出して話しかけた遥に対し、真裕から返ってきたのはそんな生返事だ。彼の瞳は庭の景観を眺めるでもなく、物思いに耽っているように見える。庭に出てからずっとこの調子だった。

 ――やっぱり私とは楽しく談笑する気になれない?

 遥は少々落ち込んだ気持ちでため息をついてしまう。

 それきり沈黙した二人は気まずい空気のまま道なりに進み、やがて小さな橋に差しかかった。

 橋の真ん中から池を見下ろせば、透き通った水の中を泳ぐ鯉たちは、とても気持ちよさそうで、自由で――遥はなんとなく、家に縛られて生きてきた我が身を自嘲するような心持ちになった。

 父たちの待つ料亭の母屋に目を向ければ、そこはいつの間にやら木の陰に隠れてしまいそうなほどに遠ざかっていて、最低限散歩と呼べそうな距離はすでに歩いたように思える。

「……そろそろ、父たちのところに戻りましょうか」
「え?」

 遥が控えめに申し出ると、虚を衝かれたように真裕が振り向いた。

「あまり長く席を外していても、失礼でしょうし」
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