離婚届を渡された契約妻ですが、罪を抱えたエリート外科医の愛が重すぎます
 苦く微笑みながら告げたそれは建前だった。真裕は父たちの手前もあって散歩に付き合ってくれたのだろうが、これ以上の無言の空気には遥が耐えられそうにない。

 そんなこちらの表情からなにを読み取ったのか、彼は目を見開き、それから自身の口元を押さえた。

「待ってくれ。その……」

 男らしいごつごつした手の内側から漏れ聞こえる声は、若干くぐもっている。

 彼にしてはめずらしく動揺しているようにも見える仕草に、遥は首を傾げた。

「もし、感じの悪い態度になっていたなら……すまない」

 今度はこちらのほうが「え?」と驚く番だった。感じが悪いと言えば、彼は小学生の時分から遥に対してずっとそんな態度をとりつづけているが、それについてこんなふうに謝罪されたのは初めてだった。

「君に話があって、周りのひとけがなくなるのを待ってたんだ」
「話……?」

 遥が瞳を瞬かせると、真裕は頷き、橋の下に目を向けた。遥もつられてそちらを見る。

 二人の視線の先を、二匹の赤い鯉が鱗を輝かせながら悠々と泳いでいった。

 それらを見送ったところで、静かな問いが耳に届く。
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