離婚届を渡された契約妻ですが、罪を抱えたエリート外科医の愛が重すぎます
 遥にとっては人生で初めてのキスであり、好きな人との特別なキスでもあった。だが、努めてなんでもない態度で臨もうと心に決めていた。花嫁の過度の緊張や恥じらいは、真裕にとって煩わしいものでしかないだろうと思ったから。

 しかし、真裕の両手が花嫁のヴェールを持ち上げたとき、遥はかすかな違和感に気がついた。

 ――震えてる?

 真裕の手が一瞬、わずかに震えたように見えたのだ。

 ――見間違いだった?

 一度はそう思いなおしたものの、その違和感は、彼と視線を合わせたときに確信に変わった。

 間近で見つめたからこそ分かった。彼の瞳の奥に、なにか熱いものが押し込められている。

 それでいて、遥の頬を持ち上げる手はどこまでも慎重で、繊細だった。これまでの彼の振る舞いからは想像もできないほどに。

 そうして、ゆっくりと唇が重なった。

 あまりにも優しい口付けに、遥はまるで自分が本当に幸せな花嫁になったかのような錯覚をいだいた。

 唇と唇が離れると、真裕はしかめっ面の中にも面映ゆさをにじませて視線を逸らし、その仕草に胸を衝かれたのもあって、むず痒いような幸福の感覚はしばらく尾を引いた。
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