離婚届を渡された契約妻ですが、罪を抱えたエリート外科医の愛が重すぎます
マンションのエントランスを出た途端、冷たい空気が頬に触れて、遥は肩をすくめる。盆地の冬は冷気が底にたまり、昼になってもあまり暖かくならない日がある。早く車に乗り込もうと駐車スペースに向かったところで、背後から声がかかった。
「本当に行くのか」
そう口にしたのは、目的地まで運転手を務めるはずの真裕だ。今日はこれから冬月家の本邸で親族の集まる食事会があり、二人はそれに出席する予定になっている。
彼は己の手の中にある車のキーをちらりと見て、遥と視線を合わせる。その顔にははっきりと〝行きたくない〟と書いてあった。いや、〝行かせたくない〟か。おそらくあの電話がなければ、真裕はまた黙って一人で参加するつもりだったのだろう。
「もちろんです。お義母様にも参加しますと言ってしまいましたから、今さらやっぱりやめますとは言えませんよ」
あの日かかってきた電話の主は、冬月佳代子――真裕の母だった。用件は、ちかぢかある食事会に今回こそは出席してほしいというものだった。
『食事会、ですか?』