離婚届を渡された契約妻ですが、罪を抱えたエリート外科医の愛が重すぎます
「はい。父は相変わらず忙しくしているようです」

 結婚してからは父と顔を合わせる機会が極端に減っていたが、定期的に連絡を入れるように厳命されているし、秘書の理人とは頻繁にやりとりしているので、どんな様子かは把握している。

 遥の答えを耳にして、政彦は柔和に顔を綻ばせた。

「そうかそうか。よかったよ。先生にはいつも……いや本当にお世話になっているからね」

 彼がしみじみとそう言うと、周囲が静かに、けれども一様に同調する気配を見せる。その場の人々がみなこちらの会話に耳を澄ませているような、どこか張り詰めた雰囲気を感じ、遥は手の中のシルバーを握りしめた。

 こんな空気は、知っている。今まで何度も経験してきた。ここにいるのは遥なのに、誰も彼もがその背後にいる父を意識して笑いかけてきているような、そんな空気だ。

 にわかに胃が重たくなっていくのが感じられて、遥は食事の手を止めた。

 そんなこちらの様子には気づかず、佳代子がにこやかに首を縦に振って政彦の話を引き継いだ。

「先生がご健勝だと、安心するわね。こちらのことも、いつも気にかけてくださって」
「そんな、父は……」
< 43 / 97 >

この作品をシェア

pagetop