離婚届を渡された契約妻ですが、罪を抱えたエリート外科医の愛が重すぎます
「手続きっていうのは……今の時期で言うと、補助金のことだな」

 そこで言葉を切った彼は、わずかに眉根を寄せる。その表情は、そこから先の言葉を遥に伝えていいものか逡巡しているように見えた。

 やがて真裕は、遠く塀の向こうにある病院の姿を見とおそうとするかのように身体の向きを変え、ぽつりと呟いた。

「……病院は、医者が患者を治療するだけで完結する場所じゃないんだ」

 その声は、さやさやと葉が風でこすれる音の中に紛れてしまいそうなほど、静かに響いた。

「金も、人も、行政の手続きも動く。建て替え、増床、設備……地域の枠だってある。大きな病院になるほど、現場だけではどうにもならない部分が出てくる」
「行政……」

 遥の喉がかすかに鳴る。

「その中に、君の父上の領分があるんだ」

 そう言ってこちらを振り返った真裕は、探るような眼差しをしていた。妻の反応を確かめているのだ。

 不意に、清白家で何度も聞いた言葉が遥の耳によみがえった。

 根回し、調整、口利き。
 それらを父はいつも口にしていた。
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