離婚届を渡された契約妻ですが、罪を抱えたエリート外科医の愛が重すぎます

孤独と情熱

『家のことを別にするなら、私は……』

 やっぱり。どうしても。

『離婚したくない……』

 結局、遥の本心はそこだった。

 ――でも、どうすればいいの?

 理人は家の話と夫婦の話を分けろと言った。そのうえでとりうる未来を考えろ、と。

 けれど、政略結婚である二人の関係と家の話を切り離すなど不可能だ。遥の夫でいる限り、きっと真裕は政治に縛られてしまう。そんな未来を遥は受け入れられるだろうか。

 理人との食事から帰宅して湯を浴びた遥は、暗鬱とした気持ちで夫婦の寝室に入った。明かりをつければ、二台のベッドが照らし出される。

 今夜は真裕も飲み会で遅くなると聞いていた。だから、まだ帰っていない。

 遥は理人が口にした強引な策をふと思い出した。

『既成事実を作れ』

 本気で実行しようなんてつもりはさらさらない。

 でも――現状を打開するなにかが欲しい。

 遥はそんな思いに駆り立てられるように真裕のベッドに入った。

 布団にくるまれると、シダーウッドのような優しい香りがほのかに鼻先をかすめる。

 ――真裕さんの香りだ。
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