離婚届を渡された契約妻ですが、罪を抱えたエリート外科医の愛が重すぎます
 仕事上、患者に配慮して香水のたぐいはつけていないはずだから、これは彼自身の香りなのだろう。

 それに包まれると、遥はひどく泣きたい気持ちに駆られた。

 真裕のことが好きだ。強くそう思う。なのにどうして、この恋はこんなにも雁字搦めなのだろう。

 想いを自覚したときから叶わないことは分かっていた。真裕には距離を置かれていて、父からはいずれ政略結婚を命じられる未来が見えていた。

 なら、束の間でも夫婦でいられたことを幸運に思うべきなのだろうか。

 ――そんなの無理……

 布団の中で遥はぎゅっと目蓋を閉じる。

 温もりを知れば期待してしまうし、優しさに触れれば気持ちは深まる。

 結婚する前の心持ちになど戻れるわけがないのだ。

「……っ」

 嗚咽がこぼれて、涙がにじむ。真裕の布団を濡らすわけにはいかないと、慌ててパジャマの袖口で拭う。それでも涙はあとからあとからこぼれてしまう。

 遥の潜めた泣き声はしばらく収まらなかった。



「――るか、遥」

 肩を揺さぶられる振動で遥は目を覚ました。

「……真裕さん?」
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