離婚届を渡された契約妻ですが、罪を抱えたエリート外科医の愛が重すぎます
 目をこすりながら、肩に触れた手の主に視線を向けると、呆れた顔をした夫がいた。

「ベッド間違ってるぞ。なんで俺のベッドで寝てるんだ」

 そう指摘されて、彼のベッドに潜り込んでいたことを思い出す。いつの間にか寝入ってしまっていたらしい。

 真裕は飲み会から帰ってきたばかりなのだろう、スーツの首元だけを緩めた格好をしていた。呼気からはほんの少しだけアルコールの香りがしたけれど、顔色も口調も普段どおりだ。

「さっさと自分のベッドに戻ってくれ」

 素っ気なくそう言って妻を促す。

 遥はチラリと自身のベッドに視線をやり、脚を動かしかけたが、そこで強いためらいが生じた。

 現状を打開するなにかが欲しい――寝入る前にもいだいたその思いが、今度は激しい焦燥を伴って胸に突き上げた。

「……いやです」

 反抗するように、掛け布団を腕に抱き込む。

「は?」
「今夜だけ、ここで寝かせてください」

 布団から顔と腕だけを出した状態で夫を見上げ、目と目を合わせて絞り出すように告げる。

 真裕が即座に眉をひそめた。

「なに言ってるんだ。自分のベッドがあるだろう」
「分かってます。でも……」
< 87 / 97 >

この作品をシェア

pagetop