離婚届を渡された契約妻ですが、罪を抱えたエリート外科医の愛が重すぎます
 遥は布団をギュッと握りしめる。

「今夜だけでいいんです。お願いします」

 真裕は困惑したように表情を歪めた。それでも、遥が眼差しに力を込めて見つめ続けると、やがて諦めたようにため息をつく。

「……分かった。じゃあ俺が向こうで寝る」

 そう言って妻のベッドに行こうとするので、遥は慌ててその手首を掴んだ。

「ダメです」
「なんで」
「真裕さんも……ここで寝てください」

 普段ならば考えられないほど大胆な発言に頬がカッと熱を持つ。だが、なりふり構ってはいられなかった。

 遥はなにも、既成事実を作ろうとまで考えているわけではない。ただ、関係を動かすためのきっかけが欲しいのだ。切実に。

 しかし、そんなこちらの事情など知るよしもない真裕は、信じられない発言を聞いたかのように目を見開く。

「お前、なに言って――」
「お願いします……!」

 重苦しい沈黙が二人の間に落ちた。

 真裕は無言で腕を動かし、手首を掴む妻の手の強さを確認する。

 そうしてひと言、低く命じた。

「――離せ」
「いや……」
「遥」
< 88 / 97 >

この作品をシェア

pagetop