隠れドS系御曹司は一目惚れで結ばれた彼女を溺愛して逃さない
「香りを追ってきたんです」

「香り?」

 羽琉矢は訝しげに眉を顰める。

「はい。道を歩いていたらとてもいい香りがしたので、どこからだろうって探していたら、ここに行き着いたんです」

 それだけの為にここに来た? 
 声の様子からウソはついていないと思う。

 開いていた門。

 香りに誘われて来た?

 まるで招かれるように? 

 まさか僕に会わせるために?

 だったらこれは誰が意図したもの? 


「それで、見つかったの?」

「いえ、見つける前に……」

 結愛は言い淀んだ。

 彼女の心中を察して……

 そうか、見つける前に僕が捕まえちゃったんだ。

「で、どんな香りなの?」

 信じてくれた。

「甘くて、美味しそうな香りで……」

 結愛は頭を抱えたくなった。

 美味しそうって表現が、わたしって食いしん坊みたい。恥ずかしい。
 他に言葉はないの? もしも、正体が花だったりしたら……
 
「甘くて、美味しそうな香りって、どこからだろう?」

 羽琉矢はぐるりとあたりを見回した。ここに住んで七、八年になるが、香りがする樹木にも花にも心当たりはない。

「繰り返さなくていいです」

 結愛が不満げに小さな声で言った。他人から聞かされると、自分の表現力がとても恥ずかしい。


< 36 / 89 >

この作品をシェア

pagetop