隠れドS系御曹司は一目惚れで結ばれた彼女を溺愛して逃さない
 頬を赤く染めた結愛がかわいい。

「僕には香りなんてわからないし、心当たりもないんだけど、結愛、確かめてみる?」

 腕がするりと解かれて身体が解放された。

 やっと自由になったと思ったら、今度は手をつながれた。完全に離してくれる気はないらしい。

「あの、逃げませんけど……」

 信用されていないの? 

 このまま逃げ出してしまうような卑怯な真似はしないのに。それにお願いも聞かなくては。まだ、果たしていない。

「うん。わかっているよ。これは僕のわがまま。好きにやっていることだから、気にしないで」

 結愛に触れていたい。それだけだ。

 気にしないでってにっこり笑って軽く言われても、あっ、指を絡められた。さっきよりも手の感触がはっきりとわかる。
 大きい手、長い指。彼の手は少しごつごつしている。自分の手がとても小さく見えた。この手もしばらく離してもらえないのだろう。

 ドキドキも通り越してしまう。

 結愛は諦めた。

 この人は何を言っても聞かなさそうな気がする。すごくマイペースな人。

「結愛?」

 名前を呼ばれてはっとする。
 ここに来た目的を忘れるところだった。

 羽琉矢に捕まって、香りどころではなかった。
 あれだけ香っていた匂いもどこへ隠れてしまったのか、すっかり消えていた。

 わたしの錯覚だったの? そんなはずはない。 

 結愛は庭に視線を移した。



 そして、目に留まったのは一本の桃の木。

 葉のない裸の枝に一つだけ実った桃の実だった。


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