隠れドS系御曹司は一目惚れで結ばれた彼女を溺愛して逃さない
「桃!」

 香ってきたのはこの匂い。
 香りだけでは解けなかった謎が、桃を見たら絡まった糸が難無くするすると解けていく。

 桃だった。

 意識をすると、強烈に甘ったるい香りが漂ってくる。

「もしかして、香りの正体は桃?」

 結愛のパッと明るくなった表情の先を追って、羽琉矢が聞いた。

「そうです。桃でした」

 結愛は大きく頷いた。

 桃か、桃。桃だったんだ。

 正体がわかってすっきりとした。

「桃の香りが家の外にもしていた?」

「はい。すごく甘くて、おいしそ……」

 そこまで言って口を押えた。

「こういう時は言っていいんだよ。とても美味しそうって、桃は喜ぶから」

 桃にも感情があるみたいに言われて、目をぱちくりとさせた。
 羽琉矢は呆けている結愛の手を引いて、桃の木のそばまで連れてきた。

 結愛の背より高い所にある濃紅色に熟れた桃は、今が食べ頃なんだろう。 香りはますます強くなる。彼女を取り巻くように、包むように。

「とても、美味しそう」

「うん。そうだね」

 素直に言葉を紡ぐ結愛に目を細めて、羽琉矢は手を伸ばして市販のものより小ぶりの桃をちぎって、彼女の目の前に差し出した。

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