隠れドS系御曹司は一目惚れで結ばれた彼女を溺愛して逃さない
「あげる」

「えっ?」

 結愛は差し出された桃と羽琉矢を交互に見つめた。

 あげると言われても、桃自体が欲しかったわけではない。香りの正体がわかればそれでよかった。目的は達したから満足していた。

「いえ。いいです。一つしかない貴重なもの、もらえません。えっと……綴木さんが」

「羽琉矢」

 結愛の言葉をかぶせるように羽琉矢の声が飛んだ。名字で呼ばれるのは嫌だったらしい。

「これは……羽琉矢さんのものですから」

「持ち主の僕が言うんだからもらって。それに桃は君に食べて欲しいみたいだから」

 結愛の手を取ると桃を握らせた。

 わたしに食べてもらいたいって、羽琉矢さんはさっきと同じ不思議なことをいう。
 結愛は桃を見下ろした。柔らかいと思っていたら、意外に果肉は固かった。

「じゃあ、半分ずつに……」

「結愛、食べてみて」

 半分ずつにしましょうと言おうとしたら、羽琉矢の言葉が遮った。
 僕の言うことを聞きなさいってことなんだろうか。
 さっきもだけれど、自分の意に反することには聞く耳を持たないのかもしれない。わがままな人だ。

 羽琉矢に対する印象が少しずつ積み重なっていく。

「ありがとうございます。大事に持って帰りますね」

 ここは彼の言葉に甘えることにした。

「誰が持って帰っていいって言ったの?」

「えっ!」

 だって、くれたんじゃなかったの? 

 羽琉矢の咎めるような表情に結愛は困惑した。

「ここで食べていって」

「……はい」

 ホントにわがまま。暴君様だ。
 それにこれは元々自分のものではないし、大人しく従っていた方がいいのかもしれない。

「それじゃ、包丁かナイフか貸してもらえますか?」

 食べろと言われて、まさか丸かじりするわけにもいかない。

「そのままで、どうぞ」

 そのまさかだった。

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