隠れドS系御曹司は一目惚れで結ばれた彼女を溺愛して逃さない
 この人、わたしをどうしたいんだろう。
 わからない。

 結愛はちょっと泣きそうになった。手に持っていた桃をじっと見つめた。

 桃の甘い香りが食欲をそそる。もぎたての桃を丸かじりするのは、一種の贅沢だと思うし美味しいだろう。
 でも、男性の前で口を開けて果物を食べるのは、かなり勇気がいる。しかも相手は初対面の男性。ちょっと無理。

「どうしたの? やっぱり切った方がいい?」 

 結愛は頷いた。

 よかった。わたしの気持ち分かってくれたみたい。
 丸かじりはしなくてすみそう。切ったら羽琉矢さんとも一緒に食べられるし、そのほうがいい。

 羽琉矢は結愛から桃を貰うとしばらく見ていた。
 刃物さえ持ってきてもらえば、自分で切るし、そう思って結愛が待っていると、

「これ、丸かじりした方が、絶対美味しいよ。だから、どうぞ」

 羽琉矢がもう一度手に握らせた。

 意地悪だ。

 結愛は恨めしそうに、上目づかいで羽琉矢を睨んだ。だが、羽琉矢はどこ吹く風といった体で澄ましている。今の状況を楽しんでいるみたいだった。

「お願い。食べてみて」

「お願いって?」

「聞いてくれるんでしょ? 僕のお願い。だから、食べて」

「お願い? これが羽琉矢さんのお願いなの?」

「そうだよ」

 羽琉矢の言葉にほっとしてほぅと息を吐いた。

 お願いって、どんなものかと身構えていたら、桃を食べること? 
 だったら恥ずかしいけどいいのかな。一口かじったら、食べたことになるよね。

 結愛って分かりやすい。すっかり油断しちゃって。
 お願いって一回だけだと思っているみたいだけど、僕は一回だなんて一言も言ってないからね。最初だから難易度を低くしたけど。

 楽しみだな。次はどんなお願いをしよう。

 結愛は羽琉矢が考えていることを知らない。

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