隠れドS系御曹司は一目惚れで結ばれた彼女を溺愛して逃さない
 結愛に魅せられたのは、腕に抱いたときからだ。

 抱き心地の良さは、持っている負の感情が少ないからだろう。閉じ込めて離したくないと思うのも、ずっと見ていたいと思うのも、清らかな気を纏っているからだ。
 それが自分を酔わせる。虜にしてしまう。こんなにも欲しいと思う女性はいなかった。だから、どんな手段を使ってでも手に入れたいと思ってしまう。

「ありがとう。でもこれは結愛のための桃だから。君が食べて」

 羽琉矢は目の前に差し出された桃を結愛の手ごと包み込むと、結愛の胸元へと押しやった。

 やんわりと断られてしまった。心がしゅんと萎む。自分が感動しただけに、羽琉矢とも同じものを分かち合いたいと思ってしまったのだ。

 ばかね。何を思ったの、わたし。

 これで終わった。終わったんだから。ここを出たらいつもの日常が待っている。

「結愛」

 優しく名前を呼ばれ、見上げた先には羽琉矢の温かい眼差しがあった。

 どきん。心臓が大きく高鳴った。

 愛おしそうに見つめる羽琉矢の瞳が結愛の心を捉える。

 捕まってしまう。

 ダメ。心を動かしてしまったら忘れられなくなる。

 この人に恋したくない。

 大きなお屋敷に住む人がただの一般人であるはずがない。もうここにはいられない。お願いは果たしたのだから帰っていいはず。

 帰ろう。

「あの……」

 結愛が別れの言葉を口にしようとした瞬間、がくっと膝から力が抜けた。

 あっという間もなく膝から崩れ落ち、ぺたりと地べたに座り込んでしまった。

 何が起きたのかすぐには分からず、言葉もなく唖然とするしかない。
 立とうと思っても足に力が入らない。腰が抜けてしまったみたいだった。

 羽琉矢は目の前で崩れ落ちた結愛を、なすすべもなく見ていた。急な出来事に何が起きたのかは分からない。
 お願いを聞いてもらった時点で今日は別れるはずだった。次の約束をしてもう一度会う。そのつもりだったのに。

 まだ逃がせない。

 羽琉矢は素早く膝をつくと、結愛を抱え上げた。

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