隠れドS系御曹司は一目惚れで結ばれた彼女を溺愛して逃さない
「結愛? どうしたの?」

 心配そうに覗き込む羽琉矢の気配を感じて、慌てて笑顔を作る。

「何でもないです。ちょっと驚いただけで」

 暗くなる気持ちを無理やりに笑い声でごまかそうした。けれど上手に笑えなくて、乾いた声が虚しく喉から漏れただけだった。

「……」

 作り笑いだとはっきりわかる表情で、結愛はまた俯いて沈んでしまった。
 綴木の名前は、この娘にとって魅力的ではなかったらしい。

 大企業の後継者だと知ると、誰もが目の色が変わる。
 何でもないことでいちいち騒がれたり、取り巻きが増えたり、告白ぐらいならまだかわいいほう。あからさまなのには正直辟易した。

 僕は結愛に何を期待したんだろう。
 驚いて欲しかったんだろうか? 羨望の眼差しで見られたかったのか、それとも、喜んで欲しかったのか。でも、そのどれでもなくて……受け入れて欲しかった。

 特別に見られがちな自分だけど、そのままを綴木羽琉矢としてありのままを見て欲しいと思った。
 目を伏せて顔さえ見せなくなってしまった結愛を見ながら、拒絶されたんだなって思う。

「結愛、急に黙ってしまったね? 何か気に障るようなことを言ったかな?」

 穏やかな中に不安げな色を滲ませた声が耳元で聞こえる。 
 ハッとして顔を向ければ、気遣わしそうにこちらを見つめる羽琉矢がいた。 


< 65 / 89 >

この作品をシェア

pagetop