隠れドS系御曹司は一目惚れで結ばれた彼女を溺愛して逃さない
 あまりにもあっさりとした返事に、一瞬、耳を疑った。

 どんなに帰りたいと言っても、帰してもらえなかったのに。

 この心境の変化は何なのか。

「お願いも果たしてもらったし、ずいぶんと引き留めてしまって、悪かったね」

 信じられないくらい、羽琉矢の表情はサバサバとしたものだった。

 さっきまでの妖艶な仕草も蠱惑的な声も危険な雰囲気の瞳も、今の羽琉矢からは微塵も感じられない。

 結愛は混乱する。

 どれが本当の彼なのか。コロコロと変わる態度はどこまでも彼女を翻弄する。

 明確な終わりは見いだせなかった。

 羽琉矢がどんなふうに、自分の感情に折り合いをつけてくれたのかは分からない。中途半端な感は否めないが、他ならぬ彼が許してくれたのだ。深く考えないことにした。

 やっと、帰れる。これで終わりにできる。

 たった数時間の出会いが、こんなにも自分を変えてしまうとは思わなかった。

 本当はこのまま別れてしまうのは辛い。嘘をついたまま、嫌われていると思わせたまま、帰るのは何より辛かった。好きだと言えたらよかった。でも、それは叶わない。

 羽琉矢の手を拒んだのは結愛だ。気持ちに応える気はないのなら、このままの方がいいのかもしれない。

 ごめんなさい。

 言葉にできず心の中で謝った。

 好きだと言ってくれて、ありがとう。

 思い出にするにはつらいけれど、思い出になんてできないかもしれないけれど。忘れることなんてできないかもしれないけれど。完全に未練を絶つことは出来ない。……それでも。

 さようなら、羽琉矢さん。

 様々な感情を解き放つように、結愛は心の中で決別した。


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