隠れドS系御曹司は一目惚れで結ばれた彼女を溺愛して逃さない
「門まで送るよ」

 羽琉矢の優しい声が心に響く。この声を聞くこともない。

 膝の上の手に羽琉矢の両手が包み込むように重ねられた。この手の温もりを感じることもない。フローリングに正座して見上げる温かな羽琉矢の瞳。この瞳で見つめられることもない。
 一抹の寂しさは覚えたが、それも時間が解決してくれるのだろう。

「これで、さよならだね」

 別れを惜しむような声音にずきっと心が痛んだが、

「さよなら、羽琉矢さん」

 結愛は何も感じないふりをして、軽く微笑むと挨拶を返した。

 終わった。

 短くて長いような二人の出会いが終わった。

「でも、いいの?」

 羽琉矢は結愛を見上げて、握っていた手に少しだけ力を込めた。

 何を言い出すんだろう? 

 帰っていいと言ってくれたばかりなのに。

「今、帰ってしまったら、僕たちは二度と会えないんだよ。それでもいいの?」

 見上げる羽琉矢の訴えかけるような声に、淋しさを湛えた瞳に、心が捉えられる。

 やめて、もう言わないで。やっと、決心したの。

「いいんです。だから、もう」

「僕のこと……忘れられるの?」

 忘れられない。けど、忘れる……の。

「ああ、そうだった。結愛は僕のこと嫌いだったね。なら、すぐに忘れちゃうよね。どうせ僕のことなんて、思い出すこともない」

 羽琉矢は言い捨てて自嘲気味に笑った。 

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