隠れドS系御曹司は一目惚れで結ばれた彼女を溺愛して逃さない
 忘れてくれないの? 

 じゃあ、わたしはどうすればいいの? 

 自分の気持ちと羽琉矢さんの気持ち、両方の気持ちを抱えて、これから、何事もなく暮らしていけるの? 

 羽琉矢さんを忘れて他の人と恋ができるの?

 込み上げた焦燥は恐怖にも似て、たちまち想いは膨れ上がり涙となって、頬に零れ落ちた。

 想い合っているのに、これから二人の人生は交わることはない。

 拒んだのはわたし。この人を傷つけたのはわたし。

 どうすればよかったの? 

 羽琉矢さんの気持ちを受け入れればよかったの? 

 自信がない。

 平凡なわたしにはこの人の恋人になる資格はない。

 それに一年後、わたしはここにはいない。

「結愛、泣かないで」

 羽琉矢は後から後から溢れ出る涙を指で拭った。

 涙に濡れる指先は、もっと触れてほしくなるほど温かで、見つめられる瞳は、紺碧の海のように深淵で吸い込まれそうで、目が離せなくて魅入ってしまう。

 このまま彼に全てを委ねてしまえたら……

 精一杯虚勢を張った心は脆くも、ガラガラと崩れ始める。

「結愛、笑って? ねっ、笑顔で別れよう。最後が泣き顔だなんて悲しすぎるよ」

 別れよう。

 彼から聞かされた言葉は、鋭利な刃物で切り付けられたが如く、致命傷のように心を抉った。

 別れよう。

 あんなに嫌がっていたのに、今は平気そうに羽琉矢が口にする。

 苦しい、息が出来ないくらい苦しい。結愛は何度も肩で呼吸をする。鼓動は激しくなるばかり。


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