隠れドS系御曹司は一目惚れで結ばれた彼女を溺愛して逃さない
「結愛、最後に笑顔を見せて」

 涙で張り付いた髪をそっとかき上げられる。

 触れてくれるのも最後。何もかもが終わってしまう。

 それを望んでいたはずなのに。この人とはもう会えない。会うこともない。

「結愛、送っていくから」

 帰宅を促される声が遠くに聞こえる。

 涙で霞んで羽琉矢が見えない。いくつもの涙の滴が、膝の上に置かれた彼の手に、ぽたぽたと滴り落ちていく。

「結愛、泣かないで。僕は結愛の笑顔が好きだよ。ねっ、結愛、最後に笑顔を見せて?」

 笑顔なんて……どうやって笑えばいいの?

 結愛の思いをよそに、羽琉矢は笑顔を向けて流れる涙を指で何度も拭ってくれる。 

 必死に引き留めていた彼の姿はどこにもなくて、未練はこれっぽっちもないみたいに笑う。

 どこで、どんなふうに、この人は決断してしまったの?   

 会えなくても平気なの? 

 わたしのことはもう思い出の中? 

 わたしだって決心したはずなのに。忘れてほしいと願ったのはわたしだったのに。二度と会うつもりはなかったのに。

 最後だなんて……

 どうしよう。耐えられない。


 別れの刹那、最後の最後に残ったのは……羽琉矢への恋情だった。


「好き……」



 感極まった思いは、甘やかな吐息と共に自然と溢れ出た。

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