隠れドS系御曹司は一目惚れで結ばれた彼女を溺愛して逃さない
「羽琉矢さん、帰らせて」

 ぷっと膨れて拗ねたような仕草がかわいらしいくて、羽琉矢は思わずギュッと抱きしめた。引き寄せられた耳元には、羽琉矢の顔があった。背中に回された腕に力が籠る。

 返事を待つ間、結愛は軽く背中に手を添えた。怒ってはいても、いざ抱きしめられるとその気持ちの良さにうっとりとしてしまう。惚れた弱みなのかもしれない。

「帰してはあげる。でも、その前に桃を食べさせて?」

 桃?

 抱きしめていた体を離すと二人は顔を見合わせた。

 にっこりと妖しげに笑う羽琉矢と意味が分からず、ぱちくりと目を瞬かせる結愛。対照的な二人の姿があった。

「桃って?」

 先に聞いたのは結愛だった。

「結愛、桃を食べたでしょう? 美味しかった?」

 唐突な質問。今頃、こんなことを聞くなんて。もしかしてホントは物凄く食べたかったとか?

「美味しかったです。ごめんなさい、わたしだけが食べちゃったから」

 ああ、あの時、羽琉矢さんがスムージーにして持ってきてくれた時、半分ずつにすればよかったのだろうか?

「そうだね。全部結愛に食べられたからね。責任取ってもらおうかな?」

「え!」

 責任って。
 あれはよく考えれば、羽琉矢が自分にくれたものだから、食べてしまっても何の問題もないはず。困惑気味に羽琉矢を見れば、拳で口を押えて笑いをこらえているところだった。

 また、からかわれた。

「もう! 帰ります」

 羽琉矢の膝の上から逃れようともがく。これではいつまでたっても堂々巡りで、家には帰れない。

「ごめん。ちょっとした冗談。でも、桃を食べたいのは本当だよ」

 羽琉矢は暴れる結愛を囲い込むように抱きしめた。

「ないのに?」

 結愛がちょっと不貞腐れたように呟く。

 ちょっと怒った声もかわいい。羽琉矢は笑みをこぼした。いつまでも見ていたい、色んな結愛を知っていくと愛しさが増していく。離したくない。

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