エリート社長の密かな純愛〜身籠り初夜から始まる極上な甘い罠〜
切ない不安が胸を過り、ぎゅっとトランクの持ち手を握り直した、その時。
「お前がそんな顔をするから、また俺が怒ってるように見えるんだろうが」
彗さんは小さくため息をつくと、立ち上がって私に近づいてきた。
私の手から重いトランクをひょいと奪い取ると、そのまま私の手首を掴んで、強引にふかふかのソファへと座らせる。
「あ、あの……?」
「そこに大人しく座ってろ。……晩飯、まだ食ってないんだろ」
そう言い残して、彗さんは流れるような動作でキッチンへと向かった。
唖然としながら見つめていると、彼は冷蔵庫から手際よく食材を取り出し、包丁を握り始める。
会社では冷酷無比な指示を出して部下を震え上がらせているあの綺麗な手が、今は私とお腹の子のために、信じられないほど手際よく、繊細に包丁を動かしている。
……その背中があまりにも不似合いで、だけど眩しくて、胸の奥がキュンと切なくなった。
しばらくして、リビングに驚くほど優しそうな匂いのする、出汁の効いた香りが漂ってくる。
「……できたぞ。座ったままでいい、俺が運ぶ」
テーブルに並べられたのは、おかゆと、薄味の煮物、それから湯気の立つお吸い物。
栄養バランスが完璧に計算された、あたたかい夕食だった。
(あのエリートな社長がこんな庶民的な料理を……?)