朝昼夜の三重人格な陛下と、第三王妃の聖女な薬師
 廊下以上に薄暗い室内は、数カ所の壁に掛けられたランプのみで照らされている。不気味というよりは怪しい雰囲気であった。
 間取りはヒルの部屋と同じ。リビングにはポーラの姿がないので、奥の寝室へと進む。部屋の中央にはキングサイズのベッド、その上に横たわる毛布の膨らみが見えた。

「姉さん、起きてる……?」

 ランナはベッドに近付きながら小声で呼びかけてみる。返事の代わりに毛布が動き出したのでポーラは起きている事が分かった。
 その毛布の中から這い出るようにしてポーラが顔を出して起き上がる。捲り上げられた毛布はポーラの両肩に引っかかると滑り落ちていく。

「姉さ……」

 ランナの瞳がポーラの全身を映した瞬間に言葉が途切れる。薄暗い闇の中、ランプの光を受けて浮かび上がるのはポーラの全身の肌の色。
 ポーラは服を纏っていない。艶やかに濡れた長い黒髪は乱れて頬に張り付いている。光の宿らない闇色の瞳は虚ろでランナを映してはいない。

「あ、あ……」

 ランナは恐ろしいものを見たかのように声と呼吸を詰まらせながら数歩後ろへと下がる。
 そういう行為の経験がないランナでも分かる。姉の変わり果てた姿を見て、これがどういう状況なのかを嫌でも理解してしまう。
 ヨルの濡れた前髪を思い出したランナは、思わず両手で自分の口を覆って荒い呼吸を飲み込む。
 顔面蒼白に近いランナに向かって、ベッドの上に座る暗黒のポーラは妖艶に微笑んで追い打ちをかける。

「ランナ……見て。私、ヨル様に愛されて幸せよ」

 目の前のポーラはもう以前の姉ではない。指輪の呪いで正気ではないのだと理解しているはずなのに、見せつけられた現実に感情が追いつかない。
 ランナの衝撃と心に渦巻く不快感は、ポーラとヨルの行為そのものに対してではない。ヨルの唇も身体もヒルと同体なのだという背徳的な事実。
 現実から目を背けるようにしてランナは身体を反転させて駆け出すが、すぐに行く手を阻まれて足が止まる。寝室のドアの前にはヨルが立っていた。

「来い。貴様も愛してやる」

 ヨルが何を言っているのか分からない。闇の中で鈍く光る赤い瞳には感情も愛の色も見えない。
 ただ、ヨルはポーラだけでなくランナも手に入れようとしているのは分かる。

「なんで、私を……?」
「アサとヒルを殺すには貴様も必要だ」

 それは愛ではなく利用価値だった。ランナは迫り来るヨルから逃げようと後ずさるが、後方にはベッドがあり、そしてポーラがいる。
 ランナの視線は正面のヨルにあるが、一歩後ろへ下がるたびに後方から語りかけてくるポーラの声が神経を刺激して足を震わせる。

「ふふ、ランナも一緒にヨル様に愛されましょう……」

 それがポーラの口から紡がれた言葉だと認めたくない。呪いに支配されたポーラはヨルの愛の奴隷となり服従しているだけで、そこに理屈や感情は存在しない。
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