朝昼夜の三重人格な陛下と、第三王妃の聖女な薬師
 ヒルは床であぐらをかいて座ると、金髪をクシャクシャと掻いてバツが悪そうな顔をする。

「しかし、本当に呪いが効いてねぇんだな……って、ランナ、どうした!?」

 ソファに両膝を揃えて座るランナは、膝の上に両手の拳を置いて顔を伏せている。その両肩は震えていて、拳の上に銀の雫が次々と落ちていく。
 ランナが号泣していると気付いたヒルは、慌てて腰を上げてソファに飛び乗ると隣に座る。

「おい、泣きすぎだろ! どうした、何があった!?」
「もう……色々ありすぎで、グチャグチャだよぉ……」

 ヒルは慰め方も下手で、ただ狼狽えている。それでも思い当たる節はいくらでもあるようで、ランナの肩を抱いて引き寄せる。

「あぁ、あれか……どうしようもないんだよ。体は1つだからさ」

 ランナがなぜ心を乱されるのか。アサがモニカを愛する行為、ヨルがポーラを愛する行為。ランナを苦しめるのは、その愛や行為そのものではない。
 今、肩を抱いているヒルの優しい腕も、重ね合ったばかりの唇も眼差しも。全てはヒルの別人格がモニカやポーラを愛して抱いた『体』と同一だという現実。
 もしランナも呪いにかかっていれば、そんな疑問も苦しみも持たずにヒルを愛していたのだろう。その方が楽に生きられたに違いない。

「ヒルくんが呪いもかけられないヘタレだから辛いんだよぉ……」
「え!? なんだそれ、逆恨みだろ!」

 そうは言うが、呪いの魅了の効果はないのに指輪は薬指から外れない。なんとも中途半端なヒルの呪いは滑稽で、もはや笑えてしまう。
 ヒルはといえば、ふざけているようで大真面目な顔をしている。冷淡なアサとも冷酷なヨルとも違う、ヒルの純粋さは不安な心を明るく照らしてくれる。

「でもさ、愛って体じゃなく心に宿るものだと思うんだよな。だからオレの心はランナだけを愛してるぞ!」
「うぅ……ぷっ……ふふ……」
「泣いたり笑ったり、どっちだよ……」

 ため息をついたヒルは、気を取り直してキリッと目を吊り上げる。ヒルにはゆっくりしている時間がない。これからの事を簡潔に決める必要がある。
 ヒルはランナの両肩に両手を置くと自分の方に向かせる。ヒルの顔が近くて強制的に赤い瞳と視線が交わる。

「ランナ。改めて言う。アサとヨルを殺すためにオレに力を貸してくれ」

 ヒルの口から放たれたのは、今もアサとヨルと同じで残酷な願望であった。
< 28 / 83 >

この作品をシェア

pagetop