朝昼夜の三重人格な陛下と、第三王妃の聖女な薬師

第10話 陛下の記憶と三人格の悪魔

 ヒルまでもがランナの力を利用しようとする。その事実に落胆するよりも、ランナはヒルの本当の意図を理解したい。
 同じ言葉でもアサとヨルの『殺意』とはニュアンスが違うように思える。

「いきなりは無理。ヒルくん……ヴァクト様は何者なの? なんで人格が三つあるの?」

 アサとヨルには聞けなかった疑問もヒルには素直に伝えられる。やはりランナはヒルと性が合う。昼の妃に相応しく運命的な相性の良さを感じる。
 ヒルは吊り上げた眉をハの字に下げて急に言葉を濁しだす。

「全部は分かんねえんだよ。オレには昼の時間の記憶しかない。生まれた時から三人格だった」
「記憶が三分の一しかないってこと? ヒルくんは、どこまで自分の事を知ってるの?」

 ヒルはランナの両肩に置いていた両腕を下ろすと、今度は腕を組んで考えるポーズを取った。ヒルは感情が素直に動作に出るので分かりやすい。

「親父から聞いた話だが、オレの先祖って悪魔らしいんだよな」
「え……悪魔?」
「あ、なんだよその顔! 聞いた話だぞ、本当か分からねえ!」

 いや、ランナは納得していた。しっくりくる。ヴァクト陛下の赤い瞳、魔力、呪い、冷淡なアサ、冷酷なヨル。どれを取っても悪魔だ。
 強いて言うならヒルだけが全く悪魔らしくないが、この世に聖女がいるなら悪魔だって存在するだろう。

「でもオレは悪魔じゃない。悪魔はアサとヨルだ。あいつらを生かしておいたら、きっとこの世界は滅ぶ」

 突然、話が飛躍してランナは追いつけない。ヒルは漠然とした理由で世界のために別人格を殺したいらしい。どこまで本気なのか。
 その時、ヒルとヨルに触れた時に読み取った生気の色を思い出した。ヒルもヨルも別の色合いではあったが、混沌とした不安定さは共通していた。
 それが意味するのは、三人格の記憶と存在の不確かさ。ランナはこの争いの裏にヴァクト陛下の深層心理を見た気がした。

(不確かだからこそ、自分を確立したい。だから殺し合うのね)

 ランナは思う。人格を殺すのではなく、三人格の記憶と心を繋げる事が必要なのではないかと。そして争いに巻き込まれたモニカとポーラを救いたい。
 そのために、ランナも仕返しとしてヒルを利用してやると決めた。
 ランナは急に目を蕩けさせて、腕を組んでいるヒルの肩に頬をすり寄せる。

「あ、なんか私……呪いが効いてきた……ヒルくんにドキドキするの……大好きかも……」
「え、マジか!? やっぱオレって天才!? イェェイ!」

(そんなワケないでしょ!)

 ランナは下手すぎる演技と甘い声を出す自分にもツッコミを入れたくなる。それ以上にヒルの喜び方が子供すぎてツッコミきれない。
 さらに指先でヒルの胸元をさすりながら猫なで声を出してみる。

「私、愛するヒルくんに協力する。だから、まず安全な場所でヨル様と二人きりで会いたいの」
「え、なんでだよ。やめとけ、あいつは危険だ」
「薬を調合するには生気の性質を知る必要があるの。ついでに色々と話を聞き出してきてあげる」

 本当はすでにヨルの生気の性質は読み取ったのだが、それは秘密。ヨルと話す術がないヒルの代わりにランナはスパイのような役割も担う。
 正直、ヨルと二人きりになるのは怖いが、いざという時は護衛……ではなくメイドのカレンが助けてくれる気がする。
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