朝昼夜の三重人格な陛下と、第三王妃の聖女な薬師
 二人は手を繋いだままで神殿の正面の階段を上っていく。その先の入り口付近で初老の男性が二人を待っていた。

「ヒル様、ランナ様、この度はおめでとうございます。私は神官のボクシーと申します」

 ボクシーは60代の聖職者。白に金色の刺繍をあしらった祭服に身を包み、優しげな瞳とグレーの髪のコントラストが目にも優しい。
 彼が婚姻の儀式を執り行う神官だが、白いタキシードの新郎のヒルは目上の聖職者に対しても友達のように接する。

「ボクシー、今日はよろしくな!」
「初めまして、ランナです。よろしくお願いします」

 ランナがお辞儀をして顔を上げると、ボクシーの視線が気になった。ボクシーはヒルよりも初対面であるはずのランナの方ばかりを見ている。
 かと思うと、ボクシーは数歩前へ出てランナの顔を正面から見つめる。その瞳は潤んでいて親しげに微笑んでいる。その視線は、まるで親戚のおじさんだ。

「おぉぉ……やはり、あのランナ様でしたか。お美しく、ご立派になられて感慨深いです……」
「え? どこかでお会いしましたっけ?」
「はい。まだランナ様が幼い頃に何度か、モーメントの街でお見かけいたしました」

 ハッとしてランナは息を呑む。ボクシーと会った記憶がないほどに幼い頃なら、まだ両親が生きていた頃だろう。
 ランナには両親の記憶がほとんどない。ランナが3歳くらいの頃に急に姿を消して死んだという両親の事を少しでも知りたい。

「父さんと母さんにも会ったのですか!? どんな人だったのですか!?」
「はい。ガイス様は最高位の聖者で、エリーナ様は最強の聖女と言われておりました。聖職者の間では神格とされるお二人です」
「そんなにすごい人だったんだ……」
「ガイス様は銀髪で、エリーナ様は金髪。金と銀の聖者と呼ばれるお二人でした。金髪のランナ様はエリーナ様によく似ていらっしゃる」

 それを言うなら姉のポーラは黒髪なので両親のどちらにも似ていない。しかしランナは今、なるべくポーラの話はしたくない。
 ランナはさらにその先、両親の死の真相について問いかけたかったが、隣のヒルが割って入って会話を中断させた。

「悪い、今は時間がない。式を始めてくれ」

 昼の5時間しか活動できないヒルにとって時間は貴重なもの。結婚式も夕方5時までに全てを終わらせる必要がある。
 ランナは深呼吸をして気持ちを切り替える。ボクシーは一礼をすると先に神殿の中へと入っていく。

「さぁ、ランナ。オレたちの結婚式だ。永遠の愛を誓おう」

 ヒルは手の平を上にして右手を差し出す。それはヴァージンロードへとエスコートするための紳士的な所作。
 その気品にヒルは王族なのだと見直してしまうが、ランナの心中は複雑だった。

(ヒルくんの愛は本物なの? 私は本当にヒルくんを……?)

 ヒルが呪いを使ってまでランナを手に入れたいのは、聖女としての利用価値。その現実が今もランナの心を痛く突き刺す。
 それでもヒルは嘘をつかない人だと理解した今は、その愛を受け入れた先に全ての答えがある気がした。

(ま、いいか。ヒルくんになら利用されても)

 軽いノリで、そう思える時点でランナはヒルに心を許している。それに今は考えている時間がない。昼の時間は短いのだから。

「うん。ヒルくん、行こう」

 ランナはヒルの手の上に左手を置いて重ねる。薬指の金色の指輪は、金髪の夫婦を繋げる呪いと愛と運命の象徴。
 二人は腕を組むと聖堂と言う名の式場へと入る。ヴァージンロードを歩く二人の両側を挟む客席からは多くの祝福の歓声が聞こえる。
 その中でも一際目立つ赤髪と赤いドレスのルアージュは微動だにせず、瞳の中で赤い炎を静かに燃やしていた。
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