これは、診察だ。

Episode6★夜空の下の小さな約束

葵のひたむきさと、それを守ろうとする蓮の絆は、日増しに周囲も認めざるを得ないものとなっていた。



難易度の高いオペも二人で見事にやり遂げ、病棟での葵の評価はすっかり「頼れる若手看護師」へと変わりつつあった。



ある週末の夜。



激務が続いた二人に、めずらしくまとまった休みが訪れた。



「おい、行くぞ」



「え? どこへですか、せ、先生~~~!」



白衣を脱ぎ、私服姿の蓮に連れられてやってきたのは、病院から少し離れた静かな公園だった。



街灯がぽつんと灯り、夜風が心地よい。



そこには、小さな木製のブランコが並んで揺れていた。



「……ここ、子供の頃によく来たんですか?」



「いや。ただ、お前が最近ずっと気を張っていたからな。頭を空っぽにできる場所を探しただけだ」



そう言って、蓮は自分の隣のブランコを軽く指差した。



恐る恐る葵が腰掛けると、蓮もその隣に座り、長い足を地面につけたままゆっくりとブランコを揺らし始めた。



「……気持ちいいですね」



夜空を見上げる葵の横顔を、蓮は静かに見つめていた。



「なあ、橘」



「はい?」



「お前が看護師になると決めて、この病院に来た日。……実はずっと、遠くからお前のことを見ていた」



「え……?」



驚いて振り返る葵に、蓮はふっと優しく微笑んだ。



高校時代のあの日の、病院のロビー。



あの時、すでに蓮は葵の存在に気づいていたのだ。



「あのときから、何年経ってもお前は変わらない。目の前の誰かを救うために、必死で涙を流す。そんなお前に、いつの間にか俺の方が救われていたんだと気づいた」



夜の静寂の中、世界で一番優しい声でそう告げた蓮。



ブランコの鎖が微かに軋む音だけが、二人の高鳴る鼓動を隠すように響いていた。
< 6 / 10 >

この作品をシェア

pagetop