これは、診察だ。

Episode9★公私のギャップ

「おはよ、橘」



「っ! せ、先生、ここ病棟のナースステーションですから……!」



「――それがどうした?」



白衣のポケットに両手を突っ込み、平然とした顔で葵に近づいてくる蓮。



「彼氏」になってからというもの、蓮の溺愛モードは院内でも(隠しつつも)全開だった。



仕事中は厳格な指導医の顔をしているものの、すれ違う瞬間に耳元で「あとで診察室に来い」と囁いていったり、カルテを渡すふりをして指を絡めてきたりする。



(心臓がいくつあっても足りない……!)



顔を真っ赤にしてオタオタする葵を、蓮は面白そうに、そして愛おしそうに見つめている。



そんな二人の甘い雰囲気を、遠くからじっと見つめる視線があった。



あの日の水野医師だ。



しかし、今の葵にはもう迷いはなかった。



蓮が自分に向けてくれる絶対的な信頼と愛が、彼女を強くしていたからだ。






その日の昼休み。



「おい、こっちに来い」



誰もいない当直室のドアを開け、蓮は葵の腕を引っ張って中に連れ込み、鍵をカチャリと閉めた。



「せんせい、みんなに見つかったら……」



「文句は言わせない。昨日の夜から、お前とまともに話せてないだろ」



そう言うと、蓮は葵を優しく壁際に追い詰め、その額に自分の額をこつんと合わせた。



甘い体温と、大人の香りがふわりと鼻腔をくすぐる。



「……なぁ、葵。今度の休日は、病院以外の場所でデートするぞ。断る権利はない」



その初めて名前で呼ばれた甘い響きに、葵は胸を突き抜けるようなときめきを感じながら、小さくうなずくのだった。
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