消防士は彼女の恋に火をつける
 そんな日常が壊れたのは、私の不注意のせいだった。

「やば、遅刻しちゃう」
 慌てて階段を駆け下りる。夜遅くまで映画を見てしまって、寝坊したのだ。二十七歳にもなって、やっちゃった。

 一階まで降りた私はそのままマンションを飛び出した。
 そこへ、見慣れた消防隊員がひとり、走ってくる。
 あっと思ったときにはぶつかってしりもちをついていた。

「すみません! 大丈夫ですか!?」
 声をかけられ、私は恥ずかしさと申し訳なさでいたたまれなくなる。

「こちらこそすみません。大丈夫です」
 顔を上げると、目の前には心配げに眉を下げた整った顔。

「本当にすみません」
 再度謝ってくれた彼は、手を差し出してくれた。

 おずおずと手をとると、ぐいっとひっぱられて私は立ち上がり、勢い余って彼にぶつかってしまう。
 とっさに彼が抱き留めてくれたのだけど。
< 2 / 8 >

この作品をシェア

pagetop